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福岡高等裁判所 昭和37年(う)190号 判決 1963年3月23日

主文

原判決を破棄する。

被告人宮崎、同髙橋、同今村、同藤井、同柳川を各懲役四月に処する。

被告人八木、同荒川を各懲役三月に処する。

但し、被告人全員に対し本裁判確定の日から各一年間右刑の執行を猶予する。

原審における訴訟費用中証人横川正二、同田中虎治、同緒方浩四郎、同深村日郎、同嶺川利三、同原田安男、同熊谷正門、同野口ミツ、同篠原義雄、同佐々木澄雄、同江間恒、同古川久雄、同加茂又四郎、同瀬戸尚に支給した分は被告人宮崎、同髙橋、同今村、同藤井、同柳川、同八木、同荒川の負担とし、当審における訴訟費用は被告人宮崎、同髙橋、同今村、同藤井、同柳川の負担とする。

被告人宮崎、同髙橋、同今村、同藤井、同柳川の本件各控訴を棄却する。

理由

弁護人森川金寿が陳述した控訴趣意は、同弁護人外一三名の弁護人連署提出の控訴趣意書、弁護人諫山博提出の控訴趣意書、弁護人森川金寿外一四名の弁護人連署提出の控訴趣意補充書記載のとおりであり、検察官子原一夫が陳述した控訴趣意は、検察官宿利精二提出の控訴趣意書に記載のとおりであつて、これに対する答弁は弁護人森川金寿、外二弁護人連署提出の答弁書に記載のとおりであるから、これを引用する。

弁護人諫山博の控訴趣意第一点、弁護人森川金寿外一三名連名の控訴趣意中原判示第一事実及び第二事実関係の各第一点(不法に公訴を受理した違法)について、

よつて按ずるに、国会の議員は憲法第五一条において、議院で行つた演説、討論、又は表決について院外で責任を問はれないことが規定されている。この免責特権は議院内における議員の職務行為又は之に関連する行為全般に亘つて認められたものではなく、議員の発言自体に起因する違法行為に限られるのであつて、暴行、傷害、監禁、公務執行妨害等暴力の行使に由来する違法行為は包含しないものと解すべきである。蓋し、免責特権が認められた所以は、院内における発言の自由を保障しようとする政策的理由に基き、国民の基本的人権の侵害という犠牲において承認されたことにあるから、議員の演説、討論、表決以外の職務行為にまでこれを拡張することは許されないからである。

固より、国会には自律権(自治権)自主権が認められているけれども、議会自治の権能が及ぶ範囲には自から限界が存するものというべく、議院内における議員の職務行為又は之に関連する行為に附随した事犯であつても、それが単なる議会内部における秩序維持に止まらず、国家社会の秩序維持に関係がある限り、も早や議院の自治のみに委ねることはできず、国家の刑罰権の発動に俟つべきである。このことはわが国が三権分立の建前をとつていることからしても当然の理であり、然らざる限り、「すべて国民は法の下に平等である」とする憲法第一四条の精神は没却されることとならう。従つて、たまたま議院内で発生し、議員によつて行はれたものであつても、それが議事手続又は議事運営自体の適否について問題とするのでなくその行為が刑法的評価からして犯罪であるか否かを判断する場合においては、これを議院において懲罰事犯と認めるか否かの認定に拘束される筋合はなく、当然検察権、裁判権の対象となり、議院の告発を公訴提起の訴訟条件とすべきものということはできない。

而して、地方議会は国会両院と本質的差異に基く相違はあるにしても、なお、自律権、自主権が尊重されねばならないことは当然であるとはいえ、国会について叙上説示したことは、地方議会における同種の違法行為については、より一層明白であるといわねばならない。それ故、本件公訴事実のように佐賀県議会において被告人等のなした行為について、これを刑事々犯として県議会の告発を俟たずその公訴が提起されたことに何等の違法もなく、原審が不法にその公訴を受理したものということはできない。論旨は理由がない。

弁護人諫山博の控訴趣意第二点中一乃至四、弁護人森川金寿外一三名連名の控訴趣意第二点乃至第五点(原判示第一事実に関する法令の解釈、適用の誤及び事実誤認)について、

よつて審案するに、原判決挙示の証拠に徴すると、原判決が冒頭に説示するような経過からして、昭和二九年九月七日から同月二一日までを会期として開会された佐賀県議会において知事から提出された議案の中、事業費及び人件費節減案を含む九議案が上程された九月一八日の議場において被告人等が安永議長の議事進行を阻止しようとして判示第一のごとき所為に出た事実を認めることができる。そこで、安永議長が原判示のような情況下に、判示のごとき緊急動議に基いて、討論省略の上、関係議案の採決を諮らうとしたことが違法な議事の執行であるか否か、従つて公務執行妨害罪成立の前提たる適法な公務執行に該当するかについて、論旨指摘の諸点を順次検討することとする。

先づ、懲罰動議先議の点について考察するに、佐賀県会議規則第七七条に「議長は直ちに討論を用いないで議会に諮る」べきことが規定されていること及び懲罰規定の性質からしても、議長は速かに之を会議に付さなければならないことは言を俟たないが、審議の状況に鑑みて時期を失しない程度において、議会の多数決による意思決定により相当と思料される範囲内で、適当に運用する余地が認められているものと解すべきであり、本件においては、安永議長が後刻取扱について研究したいと発議し、大半の了承を得て、直ちに懲罰動議を議会に諮ることなく、先に緒方議員の緊急動議を取り上げたことが証拠上明らかであるから、このことから右会議規則と違つた議事が行はれたものとして、その議事手続に違法があり、それ以後の議事及び議決は法律上効力を有しないものというは当らない。

次に、討論省略について見るに、討論は議会において議案その他審議の対象となつている案件について賛否の意見を表明するものであつて、議決と並んで議員の議会活動における本質的なものであるから、本来議案等の採決に当りこれを省略することは許さるべきでないこと、前記会議規則においても討論を当初から全く省略することは予想しておらず、質疑と討論とは二段階に区別され、質問、質疑終局の動議が出てこれが可決されて、議長は終局を宣告し、然る後に討論の段階に進むべきことが規定されていることからすると、質疑終局の宣告がなされない段階で質疑及び討議を終局するという動議を可決することは、それが多数決により議決されたとしても会議規則に違背するものと一応考えられるのである。しかし、議案の審議に当つては、発言、討論の自由が充分に保障されることが重要であり、それ故にこそ他面議事は能率的に進められ、無用の言論を防止し、時間を空費することを避けねばならないことが当然要請され、その質疑の発言は簡明にし、重複せず、議題外に亘つたり、その範囲を越えてはならず、質疑に当つては自己の意見を述べることを差し控えることが遵守される必要がある。ただ実際の議会審議の現状では、質疑の段階で議員が自己の意見を発表し、実質的な討議を行つていることも皆無ではないだらう。かくて、佐賀県会議規則は、第三一条、第三五条によつて質疑打切の動議を可決することにより、これを終局させ得ることとし、討論終局の動議は、第三八条、第三九条でこれを規定し、以つて議事の能率を髙め、無用の言論を防止する趣旨に出ている。それで、多数決により討論を省略することは絶対に許されないかどうかについて考究する必要がある。

ところで、本件において、討論を省略して直ちに議決しようとした経緯について、原裁判所で取調べた証拠に当裁判所の事実取調の結果を参酌して考察すると、前記事業費及び人件費節減に関する議案は昭和二九年五月の県議会にも提出されたのであるが、該議案については、これを支持する保守政派に属する(県政同志会)議員と、これに反対する革新政派に属する議員とが激しく対立し、議会外においても、佐賀県庁職員組合、同県教職員組合、同県髙等学校教職員組合独立協議会、同県労働組合協議会等の各労働団体が強い反対の態度を示し、革新政派の議員と相呼応して右議案を不成立にすべく反対運動を展開した。そして五月県会の最終日である六月七日に議会において保守政派の議員から質疑打切り、討論採決の緊急動議が出て、議場が混乱し、一旦休憩に入り、議会運営委員会が開れたところ、非公開の同委員会に労組員が多数傍聴に押し掛け、その後本会議に臨まうとする議長の入場を多数の者で阻止し、議場も内部から施錠される状況であつたが、本会議が漸く開かれることになつて議長が開会宣言をすると同時に革新派議員が連呼し、発言を要求して議長席に殺倒し、議長に暴行して議事進行を妨害し、議場内には多数の労組員等の傍聴者が乱入して来て、六月八日午前零時半頃混乱のうちに審議未了のまま流会となつた。また同年九月県会では前記事業費及び人件費節減の議案は県の機構に触れないよう緩和されて提案されたが、該議案の質疑は一四日から開始し一七日迄続けられる予定が一八日迄に変更されたものであるところ、同議案に対しては、議会内における両派の対立が一層激しくなつたのでなく、各労働団体は前にもまして革新派議員にその反対方を働きかけ、労組の四者に革新派議員も加わつて度々会議を持ち、対策を協議し、労組員を議会の傍聴に動員する等前記議案の成立を絶対に阻止しようと企て議会内外の闘争を展開し、九月一六日夕刻からは議事堂前の坐込を続け、議長の撤去要求を拒否して一七日も続行し、一六日には労組員からの傍聴人数の問題から混乱を生じた程で、保守政派としても、九月二〇日に討論採決の日程を組んであつたが、当日労組団体が一、〇〇〇人以上を動員し、議事の進行を妨害する企図で議事堂前で大会を催し、示威運動に出る計画を探知し、九月一九日は休日である関係で日程通り議事の運営は困難と考えるに至つた。そして九月一八日の議場において、革新政派の議員である被告人髙橋の質疑続行中に、保守政派議員より同被告人の発言内容によりその懲罰の動議が提出され、さらに革新政派議員からも保守政派議員坂井靖弘等に対する懲罰動議が提出され、一旦休憩して再会後被告人髙橋は右懲罰動議の先議を主張し、議長から再三に亘つて同被告人に質疑続行を促したがこれに応ぜず、質疑に入らなかつたので、午後五時前頃保守政派の緒方浩四郎議員より前記のような「質疑打切討論省略、全上程議案一括採決」の緊急動議が提出されるに至つたのであり、他面当日午後議長が二階から議場に赴かうとする際革新政派議員団、労組幹部からこれを阻止されたこともあり、議事堂前では依然として労組員多数の坐り込が続けられ、議場内にも労組員等多数の傍聴者が入つて革新政派議員に声援を送るなどして審議に圧力を加え、ために議場内外の静穏は失はれ、議会の健全な運営は阻害された状況にあつたことが明らかである。

以上のように、革新政派議員団は労組の強力な圧力の下に、五月県会において同種議案を流会により、その成立を阻止した上、九月県会でも九月一四日からの該議案に対する質疑により審議は充分なされているのに、またも院外諸勢力と共同して同県会を時間切れによる流会として該議案の成立を阻止しようという意図で、議事の引延しを策し、重複した発言を繰り返し、議題外の事項に亘つて発言し議事の停滞を招来し、時間切れによる流会をねらつたので、革新政派議員団との話合により解決の見込みも得られないと考えた保守政派に所属する議員において、これが対抗手段として前記討論省略の動議を提出し、これを可決したものであつて、革新政派議員団の不当な目的に出た無用の言論、審議の無制限な継続を防止するため、已むを得ずしてとつた措置と見られないでもない。

固より前記事業費及び人件費節減に関する議案は、佐賀県における赤字財政建直しのための施策の一環をなすものであつて、それが大量の人員整理に直結するものであるから、教育を掌る職員その他の県公務員にとつて重大な利害関係があることは勿論であるが、県民全体にとつても重要な議案であることは言を俟たないところである。それで一部階層に限らず、全県民という広い視野から論議される必要がある議案である。そして民主政治下における議会は、各階層間の利害得失を争う政治活動の場であり、それは本質的には闘争性を具備しているのであるから、政治的諸勢力間の要求を平穏裡に調和するため、議会における審議は民主的に運営されねばならず、その為には討論の自由と少数派の権利保護が必要であり、少数者の発言の自由を許し、その意見を充分に尊重して、論議を尽さしめねばならないこと言うまでもないが、終局的には両者の互譲により妥協を計る必要があるのであつて、妥結しないときには結局は議会主義に立つ限り、多数決原理に従つて議決するほかはないのである。多数派において寛容公正な態度で臨まねばならないこと言を俟たないが、少数派においても多数派によつて支持された見解は、議場内の論議を通じてのみでなく、世論の公正な批判を通じて、はた又選挙を通じて是正されるべきものであることを念頭に置くべきであつて、多数派の見解を不当であるとする少数派が、その修正を意図して妥協することを排し、絶対反対の態度を固持し、これに反対するために、如何なる手段に訴えてでも性急に、遮二無二、その目的を完遂しようとすることは民主主義の本旨に副うものでないとともに自ら議会の権威を失墜する結果を招くこととならう。

それ故前述のような経緯から保守政派議員によつて前記動議を上程し、これを多数決によつて可決したことは、議会制度の存立という観点からしても已むを得なかつた措置であつたと思料されるばかりでなく、前述のとおり九月一四日からの該議案の審議において、革新政派議員の殆ど全員から質疑が行われ、既に討論もそのうちに充分尽され、その賛否の意見も表明され、論議の中心も判然としていたことが記録上窺はれる特殊の場合においては前記動議には実質的に討議終局の動議が包含されていたものと見る余地がないでもない。しかも、議会規則が予想している方式と異る方法で多数決によつて前記のごとき動議を可決成立させることは、憲法及び地方自治法に反しない範囲内において、議事手続、議事運営について議会の自律権、自主権を承認する限り、その適否は議会意思により決定さるべきものと解されるので、多数派としてかかる措置に出ることは決して好ましいことでなく、その当否について論議を残すであらうが、議会規則に明文がないことの故を以て直に議会規則に違反した違法又は不当のものとは断定し難い。

以上説示したとおりであるから、佐賀県議会議長安永沢太が前示のような経緯から、前記動議を議会に諮り、それが多数決により可決されたものとして、これに基いて全上程議案の一括採決を議場に諮らうとしたことは、議長たる職務上の義務であり、従つてその職責に基いて適法に議事を執行したものであると認められ、同議長の右職務の執行には毫も違法はないものというべく、公務執行妨害罪成立の前提となる公務の執行に該当するものと解することができる。

次に被告人等が、安永議長の右議事執行を違法又は不当であるとして、これを阻止、是正しようとした行為が公務執行妨害罪の構成要件たる暴力の行使といえるか、また被告人等が共同してこれを為したか否かについて考察する。

民主々義の基本原理に立つ国家又は地方公共団体における国会、及び地方議会が髙い地位にあること、且つ言論の場であることに鑑みると、議会においては如何なる事態の下でも、あくまでも言論を以つて対処すべきことが要請される。過去における現実の議会が往々にしてあるべき姿を逸脱したことがあつたからというて、裁判上は左様な事態を法的に許されたものとして、容認することはできない。仮令、議長の議事進行を違法又は不当と考えた議員であつても、これを阻止するためには、地方自治法、議会規則で認められた範囲を越えた行動に出ることは許されるものでなく、暴力に訴えることが是認されるものと解する合理的理由を発見することはできない。それで議事進行に関する発言により、その違法又は不当を指摘し、これを取消さしめ、又は是正させる等阻止の措置に出るほかはなく、議場における反対の連呼、動議の提出、発言の要求は許されるとしても、議長の許可を得ない発言、議員の一斉発言は許されず、議事妨害のためになされたものといえる。仮りに議長において不当に議事を進める場合には、議員の側から常規を逸した連呼等も已むを得ないものといえる場合があるとしても、議長の身体に対する暴行又はその身体に衝撃を感得させるような方法による有形力の行使は、叙上の目的に出たものである限り、これを正当化する理由は存しない。

本件において、前記証拠によると、被告人等は安永議長が前記上程議案の採決を諮らうとするのを阻止しようと考え、互に意思相通じて順次各自席を離れ、口々に「議長」「緊急動議」等と叫びながら議長席に詰め寄り、被告人今村は議長の机を手で叩いて議長にその発言の中止を迫り、被告人宮崎、同髙橋は議長の机を前方より押し傾かせてその使用を困難とし、被告人髙橋、同藤井は議長の使用している場内拡声用又は録音用いずれかのマイクロホンのコードをそれぞれ引つ張り、被告人藤井、同柳川は右いずれかのマイクロホンをそれぞれ引つ張り、被告人宮崎、同藤井、同柳川は議長の着席している椅子の肘掛部分を掴んで揺り動かし、又はこれを持上げるなどして、議長を椅子からゆり落す等の暴行を議長に加え、ために同議長が前記上程議案の採決を議場に諮ることを妨げ、以てその公務執行を妨害した事実が認められるので、その個々の行為には未だ議長の身体に加えた暴行というに値しないものと見られるものがあるけれども、被告人等は当初から議長の議事執行を阻止しようと意図し、互に意思相通じて叙上の行動に出て、結局被告人等の中には議長の身体に衝撃を感得させるような有形力を行使した者があることを肯定するに足りるものであるから、被告人全員について公務執行妨害罪の構成要件を充足する暴行の罪責があるということができる。

右説示のとおりであるから、原判決の公訴事実第一に対する認定は議長の議事手続の効力及び被告人等の暴行の範囲について、正鵠を得ない憾みがあるとしても、右は判決に影響を及ぼすものでないことが明らかであるので、その事実認定に誤りがあるとするに足りないし、他に記録を精査しても、原判決の事実の認定並びに法令の解釈適用に誤りがあることを発見することはできない。

論旨はすべて理由がない。

弁護人諫山博の控訴趣意第二点中五乃至七。弁護人森川金寿外一三名連名の控訴趣意第六点乃至第一〇点(原判示第一事実に関する違法阻却事由並びに責任阻却事由)について。

一、正当業務行為又は自救行為の主張。所論は、議長の違法又は不当な議事執行を是正するため議員としての職責に基き必要最少限度の行為をしたに過ぎないから、社会通念に照しても何等違法はないというに帰着する。しかし、前段で説示したところから明らかなように、被告人等の判示所為は安永議長の議事執行を阻止しようとして為されたものであるが、右議長の議事執行を違法とするに足りないし、被告人等の行為は議員としての基本的権利の行使を逸脱したものというべきであるから、これを正当業務行為又は自救行為と認め難い。

二、正当防衛又は過剰防衛の主張。所論は、議員の討議権審議権を違法に奪い去られたものであつて、その被害法益は重大であり、言論による阻止の手段も喪はれた場合において、暴力に亘らない実力行使に出たのであるから、その違法性は阻却されるというにある。しかし、安永議長の職務執行を違法とする事由なく、被告人等の権利が不当に侵害されたものといい難く、且つ被告人等の行為が県議会の議場において是認できない有形力の行使であること前段で説示したとおりであるから右主張は採用することができない。

三、超法規的違法阻却事由、又は緊急避難行為、及び期待可能性不存在の主張。所論は、被告人等の行為は違法又は不当な議長の議事進行の強行に対し、議会における民主的運営を確保するため、これに対し抗議し、阻止しようとしたものであり、被告人等の擁護しようとした法益は議長の権利侵害に比し、遙かに優り、且つ他に適法な防衛手段はなかつたというにある。しかし、その動機、目的が議会の民主的運営を期するにあつたとしても、これを達成しようとした手段が全法律秩序の理念から観て相当性があるものとはにわかに首肯し難く、また他に適法な行為に出ることが期待できなかつたものと認めるに足りないから、右主張も採用し難い。

四、抵抗権に基く行為の主張。しかし、法律は国民自らが制定し、自らをこれにより律しようとするものであるから、個人又は団体たるとを問わず、自主的にこれが支配に服する義務がある。その主観的判断により擅ままに法を無視して、抵抗権を発動することは許されない。本件において、被告人等が安永議長の議事進行が違法又は不当であると思惟したとしても、議長の議事執行が民主主義の基本秩序の侵害であつて、憲法の存在を否認するものであり且つその違法が客観的に明白であり、本件所為に出る以外には有効にその違法状態を除却する手段はなかつたものと速断することはできない。従つて現行法秩序たる刑法第九五条を無視して実力行使に出ることを抵抗権の行使として違法又は責任を阻却するものと解するは当を得ないものというのほかはない。

右の諸点に関しこれと同旨の判断をした原判決にはこの点に関し事実誤認又は法令適用の誤り等何等の違法も見出し得ない。論旨はすべて理由がない。

検察官の控訴趣意第一の一(公訴事実第二に関する事実誤認及び法令適用の誤)について。

よつて按ずるに、原裁判所で取調べた後段に挙示する各証拠に徴すると、革新政派所属議員団は、前記四団体の協力を得て、前示事業費及び人件費節減に関する議案に絶対反対の態度を固守し、九月一八日の会議において審議未了のまま流会に導き、その不成立を図つたが、前示のように混乱の末多数派の議員団により強行採決が行はれたことに憤慨し、安永議長に抗議すると共に議長が知事に対しその可決報告をしないことを要請し、併せて審議のやり直しを求めてあくまでも右議案の成立を阻止する目的を達しようと企て、被告人宮崎、同髙橋、同今村、同藤井、同柳川外革新政派議員等は、前記四団体の幹部たる被告人八木、同荒川の外労組員等と共に、同日午後五時過頃県議事堂内の県政同志会議員控室に赴き、安永議長に会見を求め、遂に佐賀県庁舎貴賓室で県同議員等の立会を排して議長と会見することとなり、その席上議長に対し「本日の議決は無効であるから知事への可決報告をするな」、「本日の議事を緒方動議前まで戻して審議をやり直せ」などの発言を繰返し、被告人宮崎始め革新政派の各議員及び被告人八木、同荒川始め労組関係の幹部等は交々長時間に亘り、途中暫時休憩したほかは、殆ど議長を他の県同議員等と隔絶した状況の下でその会見を継続し、その間議長より疲労を理由に会見打切りが要望され、又議長を診察した医者からも再三同様の勧告がなされたにも拘らず、被告人等はこれに応ぜず、翌一九日午前零時三〇分頃議長が疲労の余り床上に卒倒する迄その脱出を不能ならしめた事実が認められる。そして、イ、右会見に際しては、安永議長は連日に亘る議事運営及び当日の混乱議会における議事執行のため心身共に疲労しており、革新政派議員団、労組員等多数が詰めかけて来て、その態度からしても長時間の吊し上げの虞れがあつたので、健康が憂慮されたため、当初労組の人達とは勿論のこと革新政派の議員とも面会を拒んだのであるが、革新政派議員等が無理に室外に連れ出さうとして執拗に面会を強要したところから、県同議員の山下徳夫等が革新政派の議員安原謙市と話合の上で、革新政派議員一〇名を限り、約一〇分間位という条件で、且つ労組員多数が押しかけて来ることが案じられ、平穏な面会ができない状況も見られたので、県庁舎の貴賓室を選んで会見することになつたこと。また議長が貴賓室に赴くに際しては、同控室前廊下周辺には労組員等多数詰めかけ、脅迫的言辞も飛び出し、緊迫した雰囲気を醸し出し、議長に革新政派議員のほか多数の労組員も同行したので、県同議員等も議長の身を案じ同行して会見に立会うとして貴賓室に入らうとするや、革新政派議員団がこれを押し出し、又は入室を拒否したので、已むなく知事室、秘書室に待機しているほかはなかつたのであつて、一方革新政派議員団並びに労組員等は貴賓室隣りの知事室、その前の廊下附近に詰めかけていた状況で、会見は最初から険悪な空気の下で開始されたこと、ロ、貴賓室における会見の模様は、革新議員、労組幹部が交替で又は一緒に入室して来て大声で矢継早に前示のごとき要求を突きつけ、或は口々に怒号し、又は卑劣な野次を飛ばし、専ら一方的に発言し、通常の話合といえるようなものでなく、その間議長及び県同議員から被告人等に対し会議の早期打切並びに議長解放方を再三に亘り要求したが、被告人等は議長の返事がないからとか、話が決らないからとか申し、これに応ぜず、革新政派議員及び労組幹部等は、議長が前示の要求に応じない限り、貴賓室から立去ることを得しめない態度状勢を示しており、知事室、その前の廊下にも労組員多数詰めかけ、屋外にも多数の労組員が待機しており、県同議員等において議長を無理に連れ出さうとすれば如何なる不測の事態を惹起するか知れない状態にあつたこと、ハ、当日議長は昼食も夕食も摂らず、心身の疲労甚しく会見当初から長時間に亘る会見に堪え得ない状態であつた上に、多数人から長時間の一方的抗議、詰問を受け、自らは殆ど無言に終始する始末で、一時は意識不明の状態に陥り、医師の来診を求めたが、充分な手当も出来ない有様で、正常な健康状態でなかつたので、再三会見打切の要請がなされたにも拘らず、午後九時頃暫時休憩が与えられたに過ぎず、会見再開後も同様な状況下で、同様の話が繰り返され、議長が卒倒した午前零時半頃に及んだことにも窺はれる。

そこで、原判決が公訴事実を否定する事由として説示した諸点について以下検討することとする。

一、貴賓室において安永議長と被告人等との会見中に、向副議長、福地県議会事務局長、その他県政同志会所属議員二、三名が入つて来た事実はないでもない。しかし、福地事務局長の入室は三回であるが、自ら進んで議長の身を案じて入室したのは第二回目のみであつて、随時立入り、議長に付き添つていたと認めるに足りない。また県同議員は貴賓室と知事室の出入口に張番していた労組員に阻止され、偶々入室しても直ちに退去せしめられる状態で自由に入室することはできない有様であり、向副議長において議長の側に居たとしても、当時の貴賓室周辺に労組員等が多数詰めかけて、異常な雰囲気に包まれていた状況下において、外部と連絡をとること乃至議長を連れ出す等の措置を講ずることは可能でなく、熊谷秘書は事務連絡のため入室を妨げられなかつたとはいえ、政治折衝の名の下に革新政派議員等と議長との会見が行われているのであるから、県会の事務職員に過ぎない者がこれに介入する資格はなく、議長の命令がない限り何等の措置も執り得なかつたのである。従つて議長自身の退出が自由でなかつたのみか、他の入室者においても外部と連絡するなどして、議長の解放措置を執り得る状況ではなかつたものというのほかはない。

二、貴賓室と隣室知事室との間の扉に別段施錠などなされず、その出入に物理的障碍があつたとはいえないし、午後八時半頃議長が帰して呉れと言つて立ち上らうとした際、被告人髙橋、同今村、同柳川等において、議長の身体に手をかけこれを阻止したことのほかには、有形力を行使した事跡は見られないけれども、被告人等は自派議員及び之に同調する多数の労働団体員が貴賓室周辺に詰めかけていて、被告人等の意思に反して議長が脱出を図れば容易にこれを阻止し得る態勢にあつたので、それ迄の必要がなかつたに止まり、議長が被告人等の阻止を排して退去することが自由な状態であつたとはいえない。

三、右会見中に相当数の報道関係者が自由に出入していたことは相違ないが、報道人の出入、在室を禁止し、報道活動を妨げるごときことは、却つて世論の反撃を招き、目的達成の支障を来たすこところから、敢てこの挙に出なかつたものと推測され、このことを以てその会見が平穏裡に行はれ、被告人等に監禁、強要の意図が全くなく、議長が自由に退出し得る状況にあつたものとするに足りない。

四、またその間に、知事室に相当数の県同議員等が待機していたことは、当時の緊迫状況下において、暴力行為が行はれ、重大な結果に及ぶような事態に立至れば格別、然らざる限り、議長の健康を案じつつも、会見の成行を見るほかはなく、議長の解放を図るため、特別の措置をとり得なかつたものと推測される。

五、一時休憩に入つた際、被告人等の議長と会見した者は殆ど退出していたといえ、議長はなお被告人等の看視から完全に離脱していた訳ではなく、県同議員山下徳夫等が議長の身を案じ話しかけるや、被告人藤井が直ちに現はれてこれに抗議して山下議員を退室させ、休憩中の革新政派の議員等を入室させ、休憩の予定時間半ばにして再び従前の会見を続行した程であり、また休憩中に議長が便所に行くときにも被告人藤井等が監視のため之に同行しており、休憩中といえども議長が脱出することは到底実現性がなかつた。

六、休憩を中止し会見が始まつた後、午後一〇時過頃議長が翌日の再会見を革新政派議員団に連絡した事実はある。しかし、休憩中議員及び労組員の出入もあり、休養にならぬところから、迎医師から「暫くで話がつくなら辛棒して話を続け、早く切り上げて入院されたがよい」との勧告があつたため、革新政派の代表二名を呼び、議長、副議長の四者で話合つて、翌日の会見が約束されたのであるが、健康上それ以上の会見に堪え得ないことによる窮余の措置であつて、専ら当夜の会見を早く打切り、苦痛から脱しようとしたもので、真の自由なる意思から出たものでないことが窺はれる。ところが、右の約束に関し革新議員側から苦情が出て、当日の会見を打切る訳にいかないということで、さらに労組員及び革新議員から交々従前の話しが蒸し返され、議長が卒倒したため自然中止となつたのであつて、議長の再会見の申入の事実は両者の会見が正常な情況の下で行われていた証左とはなし難い。

七、公訴事実に副う供述が記載されている黒川虎次、安永沢太外数名の検察官に対する供述調書が、証人としての供述に照し、採用し得ないとされているけれども、両者を比較検討してみると、各証言が時の経過により記憶が漸次薄らいでいることが看取し得られる部分があるとはいえ、両者の間に特に問題とする程の矛盾、喰違があるとは見られず、他にその信憑性に支障を及ぼす事由は発見することができない。

従つて、被告人等の行為は正常な健康人と自由な気持で何等の苦痛も伴はず行われたものということはできず、警察力の介入なくしては、被告人等の阻止を排して議長が脱出することは不可能な状況下において、若し警察力を導入れ、異常な混乱を招き、将来の議事運営にも深刻な禍根を残す等の不測の事態の発生を避けて、敢てこの挙に出なかつたに止まり、被告人等の所為が安永議長をして貴賓室より脱出することを不能又は著しく困難ならしめて、その身体の自由を侵害し、畏怖させてこれを脅迫したことを否定するに由なく、しかも前記会見の場所は県庁舎内の貴賓室であつたとはいえ、そして議員団と議長との政治折衝の名の下に行われたとはいえ、外部勢力たる労組幹部等が、その時とその場所を弁えず、且つ相手の意思にかかわりなく、陳情と称してこれに立会い、むしろ相互に協力して議長に対し抗議と強要をなしたものであつて、議会制度が予想する正当な政治折衝の範囲を脱したものというのほかはない。それ故被告人等は互に意思相通じて、安永議長を長時間に亘り貴賓室内に監禁し、且つ右のごとく同室から脱出不可能の状態を作為してこれを同人に認識せしめて、その身体の危険を感得畏怖させ、同人をして佐賀県知事に対し前記議案の議決書を送付する手続を行わしめず、且つ議事のやり直しをなさしめるため同人に脅迫を加え、以て議長に対しその職務を強要した事実を肯定せざるを得ないのであつて、当審における事実取調の結果によつても右の結論に消長を来たさない。

してみると、原審が右公訴事実を認める証拠が十分でないとして被告人等に対し、無罪の言渡をしたのは、証拠の取捨並びにその証明力の判断を誤り、ひいて事実を誤認し、又は法令の適用を誤つたことに帰着し、この誤りは判決に影響を及ぼすこと明らかであるから原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

検察官の控訴趣意第一の二(公訴事実第三に関する事実誤認及び法令適用の誤)について。

記録によると、原判決はその挙示の証拠によつて、原判示第二のとおり、昭和二九年九月二一日午後三時過まで当日の会議を閉会せしめないことにより流会に導くため、被告人宮崎、同髙橋が外数名と共謀の上、午後二時頃金立村村民の陳情団二、三〇名と共に県政同志会議員控室に到り、出入口内外に立ち塞がり、同室に居合せた同志会議員合計一五名に対し、暴力を行使して午後二時四五分頃警察官が救出する迄の間同室から脱出することを不能ならしめて監禁した事実を認定し、被告人今村、同藤井、同柳川は右犯行について被告人髙橋等と共謀したと認める証拠がないとして無罪を言渡したことが明らかである。

しかし原判決が採用できないと指摘した田中虎登、中島秀雄外数名の検察官に対する供述調書の供述は、これを同人等の公判における証言に比べて検討するに、時の経過等の点を参酌してみると、証言の方がその明確さ、詳細さに劣るとはいえ、本質的な矛盾という程のものはなく、検察官調書の供述が信用性を欠ぐものと断定する事由を見出し得ない。そして原裁判所で取調べた爾余の証拠に、当裁判所の事実取調の結果を併せて考察すれば、革新派の議員等は一様に九月一八日の議会混乱についての話合がつかない状態で二一日の県議会を開会することに反対していたものであつて、被告人髙橋等と同じ革新政派に所属する被告人今村、同藤井、同柳川も、被告人高橋等と同じく当日の会議を流会に導く意図を持つて同人等と共に当日の議会運営について、県政同志会議員団と交渉をする名目の下に同会議員控室に赴き、同人等と行動を共にしていたものであり、特に被告人藤井、同今村は被告人宮崎、同髙橋と共に手や身体で脱出しようする県同議員を押し返したり、県同議員が衝立を移動させようとするやこれを奪い返し、或はその前に立ち塞がるなどの行為をなし、また被告人柳川は向副議長が室外に連絡のため電話をかけようとした際、被告人宮崎、同高橋から「その電話をかけさせるな」との発言に従つて向副議長の持つた受話機を取上げ、これを阻止する行動に出たのであつて、相共に金立村陳情団員の陳情を利用し、且つ労組員等の動員に協力を得て、互に意思相通じて県同控室内の同派議員等を室外に脱出することを不能ならしめる行為に出たものである事実を認めることができる。而して被告人柳川が向副議長の電話連絡を阻止した行為は同控室に他にも電話機が今一つ設置されていたので、これを使用して外部との連絡が可能であつたからというて、被告人柳川の右阻止行為が被告人宮崎等の監禁行為と直ちに結び付かないものとするのは早計である。なぜなら、当時の状況は、右陳情団、労組員、革新政派議員等多数詰めかけ、県同控室の出入口の内外に立ち塞がり、室内では衝立の移動、奪合い、押し合等により相当に紛糾しており、議場二階からの階段及び県同控室外から報道関係者がその窓を透して内部状況を写真に撮つていた程であるから、外部との電話連絡も決して容易でなかつたことが窺はれる有様であるからである。そして向副議長が警察官の出動を要請して救出を求めない限り、県同議員等の脱出は不可能であると判断されたため、電話連絡を取らうとしたものであつて、現に警察官の出動によつて漸く脱出し得たことが明らかであるので、被告人今村同藤井、同柳川も右監禁罪について共同の罪責を負うべきであることは否定し難い。

それ故、公訴事実第三について、被告人今村、同藤井、同柳川に対し無罪の言渡しをした原審は、公訴事実第二と同じ誤りを犯したもので、事実誤認又は法令の適用を誤つた違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決はこの点においても破棄を免れない。論旨は理由がある。

弁護人諫山博の控訴趣意第三点、弁護人森川金寿外一三名連名の控訴趣意中、公訴事実第三に関する第二点及び第三点(事実誤認、法令解釈の誤、理由不備、実験則違反、判例違反、並びに違法阻却事由についての法令解釈適用の誤)について。

しかし、検察官の論旨について判断したところから明らかなように原判決の有罪認定部分に関しては事実誤認、法令適用の誤、判例違反その他の違法はなく、違法阻却事由については弁護人の公訴事実第一についての論旨に対して示した判断を援用することができるものと思料するので、右主張に同調し難い。論旨は理由がない。

検察官の控訴趣意第二並びに弁護人諫山博の控訴趣意第四点(量刑不当)について。

しかし、記録を精査し、本件犯罪の動機、態様、その他諸般の事情を考究すると、原判決が有罪を認定した各被告人等に対する科刑は重きに過ぎず、軽きに失するものということもできず、不当と認める事由を発見することはできない。論旨はいずれも理由がない。

そこで、刑事訴訟法第三九七条に則り、被告人宮崎、同高橋、同今村、同藤井、同柳川の本件各控訴を棄却し、同法第三九七条に則り原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に従い、更に自ら判決することとする。

(罪となるべき事実。)

当裁判所が認定したこととなるべき事実(原判示第一事実以外の事実)は次のとおりである。

(一)  被告人宮崎、同高橋、同今村、同藤井、同柳川、同八木、同荒川は、安永議長をして原判示議案の議決書を佐賀県知事に送付させず且議事のやり直しをさせるため、昭和二九年九月一八日午後五時頃から佐賀市佐賀県庁貴賓室において、安永議長に対し交々「本日の議決は無効だから知事えの可決報告をするな」「本日の議事を緒方動議前まで戻し審議をやり直せ」等申向けたが、安永議長において応ぜず午後六時過頃疲労の余り会談打切りを申し出たのに対し、同被告人等は外多数の者と共謀の上、安永議長の自由を束縛してあくまで右要求を貫徹するため会談の打切りを拒否し、安永議長を取り囲んでその退室を阻み、その間医師迎俊彦において安永議長を診察して心身の過労していることを診断した結果両三度に亘つて注射をうつては、「体がもたないから会談を終了されたい」と言明したのにかかわらず、これを無視し、夕食もとらせない侭且は安永議長疲労のため一時休憩した際でも被告人藤井が同室に居残つて監視し、用便にも同被告人が同行するような状態の下において、交々「議長の返事次第で済むことではないか」と申向けて要求を続け、安永議長において被告人等の要求に応じない限り解放しない旨の言動態勢を示して安永議長の自由を束縛し、翌一九日午前〇時三〇分頃安永議長において疲労の極卒倒するまでの間その脱出を不能ならしめ、安永議長を同室に監禁し、かくのごとくして、佐賀県知事に対する前記議決書の送付を阻止し併わせて議事のやり直しをさせるため、安永議長をしてその身体の危険を感得畏怖させる等安永議長に脅迫を加え、

(二)  被告人今村、同藤井、同柳川は被告人高橋、同宮崎外数名の者と共謀の上、昭和二九年九月二一日の佐賀県議会を定刻の午後三時を経過するまで開会させないで流会に終らせようとして、当日上程予定の市、村の廃置分合に関する議案に反対する陳情団二、三〇名と共に同日午後二時過ぎ頃前示県議事堂内にある県同議員控室に到つて、同室の出入口内外に立ち塞がつて、同室に居合わせた同志会所属の県議会議員向虎治外一四名に対し、陳情を聞けと申向け、被告人宮崎、同高橋は同室扉の前に衝立を置いて出入口を塞ぎ、被告人柳川は副議長向虎治において電話器を手にするや、これを抑えて外部との連絡を阻止し、被告人宮崎、同高橋、同今村、同藤井は議場に赴くため出入口に歩み寄つた前記議員を手や体で押返して室外に出るのを阻止する等の方法によつて、同日午後二時四〇分頃警察官が救出するまでの間向等一五名の議員の脱出を不能ならしめ、もつて同人等を同室に監禁した

ものである。

証拠の標目 ≪省略≫

(法令の適用)

原判決が確定した原判示第一の被告人宮崎、同高橋、同今村、同藤井、同柳川の所為は各刑法第九五条第一項第六〇条に、当裁判所が認定した(一)の被告人宮崎、同高橋、同今村、同藤井、同柳川、同八木、同荒川の所為中不法監禁の点は各同法第二二〇条第一項第六〇条に、職務強要の点は各同法第九五条第二項第六〇条に、原判決が確定した原判示第二の被告人宮崎、同高橋の所為および当裁判所が認定した(二)の被告人今村、同藤井、同柳川の所為は各同法第二二〇条第一項第六〇条に該当するところ、(一)の職務強要の罪と不法監禁の罪との間、(二)および原判示第二の一五名に対する各監禁罪の間には、それぞれ想像的併合罪の関係があるから同法第五四条第一項後段第一〇条により前者は重い監禁罪の刑により、後者は情状最も重い向虎治に対する監禁罪の刑によつて処断すべく、被告人宮崎、同高橋、同今村、同藤井、同柳川の以上の罪は各同法第四五条前段の併合罪であるから、各同法第四七条第一〇条により最も重い安永沢太に対する不法監禁罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内において被告を各懲役四月に処し、被告人八木、同荒川関係では前記不法監禁の罪の刑期範囲内で被告人八木、同荒川を各懲役三月に処する。なお、被告人全員に対して情状に鑑み、同法第二五条第一項により本裁判確定の日から一年間右各刑の執行を猶予し、原審における訴訟費用中主文掲記の分は刑事訴訟法第一八一条第一項に従い被告人等全員の負担とし、当審における訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項に従い被告人宮崎、同高橋、同今村、同藤井、同柳川に負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

検察官 子原一夫、同大野正出席

(裁判長裁判官 岡林次郎 裁判官 中村荘十郎 臼杵勉)

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